08年4月15日(火)
アートdeArtU(6)「たゆう虹」―“うらにし”丹後ちりめんの里に架かるe001_artde)アート de Art
丹後ちりめんの織元、田勇機業(網野町)を訪ねました。
丹後の織物については、すでに奈良時代に絹織物「あしぎぬ」を朝廷へ調貢したことや、足利時代に名品を織っていた記録があります。いまのように独特の「しぼ」を持つ丹後ちりめんは、今から約300年前に峰山の絹屋佐平治という人が京都・西陣の機屋へ奉公し、苦労してその技術を持ち帰ったのが最初とされています。
その丹後ちりめん、田勇機業では撚糸・織り・染めまで一貫してやっているそうです。「しなやかな手触り、それでいて親子代々着継がれる丈夫さは正絹独特のもの。これは、こだわりたいんですよ」と話すのは田茂井勇人(たもいはやと)社長。
伝統を受け継ぐことと同時に、海外にも丹後ちりめんを“発信”しようと努力しているといいます。
2002年、着物用の小幅生地をイタリアのブランドが使用したのをきっかけに、2004年にはイタリアとのビジネス交流をめざす「ミラノにおける関西展」に出展。2006年からは国の「JAPANブランド育成支援事業」により、ベルギーやフランスに出展し、若手デザイナーとのコラボレートでオートクチュール(仕立て)ドレスに丹後ちりめんを使いました。そして、今年2月の「JAPANブランド・丹後テキスタイル展2008」では、エルメスやシャネルなどのデザイナーやバイヤーが来場し、通訳を介して熱心なやりとりが…。「これほどクオリティーの高い素材は、今やヨーロッパでもなかなか手に入らなくなった」と生地を持ち帰るブランドなど、手ごたえは一層大きくなっているそうです。
国内でも、和装以外のブランドの紳士シャツ、婦人帽子・パンプスなどに生地を提供。丹後地方の地元3社(田勇機業、安栄機業場、一色テキスタイル)が原宿のデザイン会社と共同し、新しいブランド「姫丹後」―丹後の七姫伝説にちなんだ名前―の展開をめざします。
「たゆう虹」というボカシの技法を使った鮮やかなシリーズがひときわ目を惹きます。「丹後は“うらにし”。“弁当忘れても傘忘れるな”といいます。しぐれることが多いけれど、よく虹が架かるんです」。
冬は雪深く、夏は蒸し暑い。四季の表情は豊かだけれど、決して暮らしやすくはない。そんな風土で、心優しく辛抱強い人々によって受け継がれてきた丹後ちりめん。…厳しいなかでも、“虹が架かる”明日をめざしてがんばるみなさんと、もっともっと手を繋いでいかなければ、と感じた訪問でした。
*田勇機業株式会社 京丹後市網野町浅茂川112 TEL 0772-72-0307
(『京都民報』4/20付「成宮まり子のアートde Art」)